Sorry... This page is using JavaScript.
8.16 JACKSON ≫≫

RAPID CITY


 STATE14を東へ。
 相変わらず寒い。しかし、起伏に富んだカーブの多い道路を走っているので、飽きることはなかった。一面を豊かな緑に囲まれている。ワイオミング州北部に位置するこの辺りには牧場が多く、小さな虫もとにかく多い。おそらく放牧なのだろう、たまに牛の群れが道路にいたりすることもある。


 小さなカーブが続く坂道を、右に左にのんびりと上って行った。
 坂を上り切る直前で左にコーナーを抜けると、その牛たちにばったりと出会った。あわててブレーキをかけたが、停止したのは群れまで一〇メートルほどの所だった。三〇頭ほどの牛が、完全に道路を占拠してしまっている。近くで見る牛は、想像以上に巨大だった。皆が、一斉にゆっくりとこちらに顔を向ける。身のすくむ思いがした。
「おいおい、どいてくれよ。」
 ほとんどの牛はのそのそと移動して道路を空けてくれたが、道路の真ん中に立ってこちらを見たまま微動だにしないのが二、三頭いる。その黒く小さな目は、何を考えているのだかさっぱり分からない。牛が赤い色に興奮するというのが根拠のない話だとは知っているが、それでもオートバイが赤いので不安になってくる。空吹かしをしたりホーンを鳴らしてご機嫌を損ねるのも賢明とは思えない。車ならじりじり近寄れば避けるかも知れないが、オートバイでは逆に体当たりされかねない。そうなるとこちらはイチコロだ。どいてくれるのをじっと待つしかなかった。
 待つ時間はいやに長く思えたが、ようやく群れが移動を始めたので、僕はその横をゆっくりと静かに通り過ぎた。


 道路は相変わらず小さなカーブが多く、今度は長い下りが続いた。一万フィート級の山々が近くにそびえている。ロッキー山脈、そしてビッグ・ホーン山脈を越えて行った。

 かなり下り切った所でI−90に合流する。寒く天候の不安定な山脈もここで終わりだ。標高が下がるにつれ空気が生暖かく陽射しの強さも感じるようになってきたが、湿度が低いためか走っていれば暑くはなかった。


 高地を走っていた先ほどまでとは打って変わり、今度は殺風景な景色が延々と続いた。これと言って見るものはなく、ただ東へ東へとオートバイを走らせる。
 今日は、アメリカン・タイプのオートバイに跨った集団をよく目にする。ロー・ダウンしたボディーで、顔と同じ位の高さでハンドルを握り、足を前に投げ出しすようにしてシートに座っている。どれも、タンデム・シートには荷物がどっさりと詰まれている。一台や二台で走っている者もいるが、ハイウェイを降りてガス・スタンドに入ると、上から下まで黒ずくめの男たちがたむろっていたりすることもある。映画などでよく見る少々怖そうな雰囲気そのままだ。ほとんどが皮の上下に皮のブーツ、頭にバンダナとお馴染みのスタイルだが、よくこの虫の多い中をヘルメットも被らずに走っていられるものである。僕のヘルメットやオートバイの前面には、小さな虫がたくさん張り付いている。スタンドに立ち寄る度に、備え付けのごわごわした青い紙に洗剤をつけてそれを拭き取らなければならない。
 連中は皆、口の中に入っても平気で食ってしまうのだろうか。男たちを見ているとやりかねないような気もした。
 スタンドの脇に積み上げられたタイヤにカメラを乗せ、アングルを決めてからセルフ・タイマーでオートバイに跨った自分の写真をフィルムに収めた。チョッパー野郎達ともいっしょに写ってみたいが、こういう場合映画だと、
「ケッ、ナンパなこと言ってんじゃねえよ。」
「おい、野郎ども・・・・。」
 と、こうなるのだ。考え過ぎだろうが、さすがに声をかける気にはなれなかった。


 緑の少ない荒れた土地の中をI−90は走った。やがて山岳部からサウス・ダコタ州に入る。
 北に隣接してノース・ダコタ州があるが、どちらも農業の盛んな州だ。もともとこの二つの州はダコタという一つの準州だったが、一八八九年に北と南に分かれ州として合衆国に加盟している。一八七〇年代の鉄道開通や金鉱の発見に伴って東部から多くの入植者がこの地に入り、一〇年間で人口が四倍にも膨れ上がった事が理由だ。


 サウス・ダコタ州に入り、あと一〇〇マイルも走れば予定のラピッド・シティに着く。ラピッド・シティはブラック・ヒルズ山地のすぐ北にある町だ。
 今走っている辺りにはまだ十分な明るさがあったので、更にもう一時間くらいは走れそうにも思えたが、遠くの空は真っ黒な雲に覆われていた。その雨雲は、まるで得体の知れない化け物のように地上までも飲み込み、その方向に向かうのが恐ろしくなるほどだった。進むにつれ、上空はみるみる暗くなっていった。この様子だと、降り始めればかなりの豪雨になることは間違いないだろう。持ちこたえてくれることを天に祈りながら、スピードを上げて先を急いだ。
 何とか雨には見舞われず無事ラピッド・シティに着いてハイウェイを降りる頃、分厚い真っ黒な雨雲は、その底に手が届きそうなまでに迫っていた。


 モーテルに入り、シャワーを済ませて出てくると、外は猛烈な勢いで雨が降り出していた。夕食がまだなのだが、これでは外に出ることも出来ない。仕方がないので備え付けのコーヒーで空腹をごまかしながら、今この日記を付けているところだ。




走行距離 六九三km/四二五三km
八月一五日 二〇時〇五分


NEXT 8.16 JACKSON